【インタビュー】かけがわ茶エンナーレ2024
日本有数の茶産地・掛川市で2017年に初開催し、今回で3回目となる「かけがわ茶エンナーレ2024」。今年は「Moving〜日日是動日〜」をテーマに、茶文化創造や未来創造、掛川三城、美術、音楽、舞台芸術の6つのアートプロジェクトなどが、2024年11月2日(土)〜17日(日)の16日間、掛川市街中心部など各所で開催されます。
「かけがわ茶エンナーレ2024」実行委員会事務局の西村 句さんと、美術プロジェクトリーダーの高橋咲月さんのお二人に、今回のイベントついて伺ってきました。
市民がつながることで
新たなアートが生まれる場所に
2017年、「アートが息づく茶産地へ」をテーマに、地域芸術祭「かけがわ茶エンナーレ」が開催。全国有数の茶産地、掛川市の茶畑や歴史的建造物を舞台に、プロから市民まで多くのアーティストが参加し、多彩なアートプログラムが展開されました。2回目のかけがわ茶エンナーレは、新型コロナウイルスの感染拡大で1年の延期となり、2021年に「かけがわ茶エンナーレ2020+1」として開催され、「超日常茶飯事」をテーマに、市民参加型・市民公募のアートプログラムが実施されました。
「過去2回の開催を踏まえ、『かけがわ茶エンナーレ2024』は、より地元の人が参加していると実感できるアートイベントをやってみよう、いわば、地方で開催する芸術祭の見本となるようなものを目指しているんです」と語る西村さん。アーティストを招聘する役割などを担うプロデューサーをあえておかず、普段から掛川で暮らし、地元の人とのネットワークを持っている方々に、プロジェクトリーダーとして参画してもらっているのだそうです。
今回初めて、実行委員会事務局として茶エンナーレに参加します。
「6人のプロジェクトリーダーが市民をつなげ、市民が市民をつないで網の目のようになっていく中で、アーティストではない方から、こういう作品を作ってみたいという提案が出てくるのが、今回のイベントの醍醐味だと思うんです」。実際、今回のイベントの中には、建築士が「まちづくり」をテーマにした作品を公募アートプロジェクトとして展示することになったそう。「私たちは、今回の茶エンナーレを『まちづくりをテーマにした芸術祭』と呼んでいるのですが、まさに、それが実現されつつあるという実感があります」。
作る場を用意することで、
アートの線引きを取り払う
今回の「かけがわ茶エンナーレ2024」は、市民などからの公募による「公募アートプログラム」のほか、企業などとタイアップした「タイアッププログラム」、茶文化創造・未来創造・掛川三城・美術・音楽・舞台芸術の6つのジャンルからなる「アートプロジェクト」で構成されています。その中でも核となっているのが、6人のプロジェクトリーダーが中心となって進める「アートプロジェクト」です。
「私は普段、掛川市内で会社員をやってるんです」。そう語るのは、6人のプロジェクトリーダーのうちの一人、美術プロジェクトリーダーの高橋咲月さん。
掛川市との関わりを持ち、9年前に偶然、掛川に移住してきました。
第1回の茶エンナーレから、市民参加枠や参加アーティストとして関わってきた高橋さん。過去2回の茶エンナーレを見てきたからこそわかる、アートで市民を巻き込むことの難しさを感じていたと言います。「掛川の人は、すごく人があたたかくて、学生の時に訪れたことを覚えていてくださる人もいるくらい。だから人と繋がることに関しては、掛川は本当に素晴らしい環境にあると感じています。ただ『アート』で何かやりましょう、ということになると、途端に距離ができてしまうんです」。ママ友はすぐにできるし、何年も前にお世話になった地域の方々も、何かをしようとする時には快く後押ししてくれる。けれども、今度、絵を描くので来てくださいよ、と誘うと、アートは全然わからないから、美術は2だったからと、仲のいい人でも一気に距離が空いてしまうということを繰り返していたそうです。
そこで今回、美術プロジェクトリーダーとなった高橋さんが用意したのは[ツクルバ・ダラ]という、人と街がアートで繋がる活動。つくることが得意と苦手、アーティストと市民、大人と子供といった、何かを二分するような線引きを取り払い、ボーダレスにしたフラットな「ツクル仲間」を目指す活動なのだと言います。
子供はもちろん大人も一緒になって茶畑の中で実験しました。
「パッとみただけでは、単に糸電話で遊んでいるだけに思われるかもしれないですが、それでもいいんです、なぜなら『ツクルバ(作る場)』だから。作品を作るとか活動する中で、参加した人たちが一緒になって地域について探求する場を用意すること、それが広い意味でのアートにつながっていくのではないかと思っているんです」。
過去2回の茶エンナーレを見てきた高橋さん。アーティストが作るものだけがアートではないのでは、という想いのもと、市民との繋がりを大切にし、そこから発生する作品を価値あるものにしていこうという気概を感じます。
11月2日にお披露目される「ツクルバ・ダラ シンボルアート」では、現代美術家スギサキハルナさんによる絵画作品が展示されますが、ここにも[ツクルバ・ダラ]の活動が生かされます。「先ほどの通り、絵を描いてください、というと距離ができてしまいますが、お庭に何か花が咲いてないですか?そのアジサイの花をいただいてもいいですか?実はこのアジサイ、絵の具にするんですよ。大きい絵を描くんで、見に来てくださいよ、ってうと、それじゃあ、といってぐっと距離が近くなり、繋がれる人が増えていくわけです」。いろんな植物を集めているという話は人伝に広がり、市内全域からさまざまな植物が集まってくることで、完成した絵の中には、掛川に住む人により収集された、掛川の色が凝縮されていくことになると言います。
そのエピソードも記されていて、絵画とともに絵の具も展示されるとのこと。
スギサキハルナさんは、掛川市にルーツがあり、地域の自然物を顔料に加工し、それを絵の具にして絵を描く作家。掛川の大地そのものを絵の具と捉え、個人や企業をはじめ多くの市民、延べ300人以上が関わり集まった70色以上の絵の具を使って、どのような絵が出来上がるのか。高橋さんはもちろん、色を提供してくれた市民の皆さんも楽しみな、美術プロジェクトの集大成になりそうです。
美術プロジェクト以外にも
観どころ聴きどころのあるイベントに
過去2回は、アートを現代美術という範疇で捉えることが多かった、かけがわ茶エンナーレ。今回は、「超」がつく有名アーティストの作品がないアートイベントではあるものの、広い意味でアートを捉え直すことで、掛川にゆかりのある一流のアーティストの招聘に成功しています。掛川出身の著名な調律師の縁で、世界的なクラシックの演奏家が目の前でパフォーマンスをする音楽プロジェクトや、茶工場を舞台にしたパフォーミングアートを行う茶文化創造プロジェクト、屋外ステージで市民参加型によるダンス時代劇を作り上げる舞台芸術プロジェクト、学生アーティストが企画・運営する未来創造プロジェクトなど、週末を中心に観る・聴くを楽しむプログラムが多数用意されています。
そして多くのプログラムでも、掛川のお茶が提供されるそう。
「お茶がひとつの媒介というか、どこかでお茶の香りがする、お茶で人が繋がっていく、そんな芸術祭になります」と西村さん。
お茶の香りが漂う11月の掛川。この土地ならではの人との繋がりを大切にした芸術祭は、これからの地方都市の新しいお手本となっていくのかもしれません。