【インタビュー】クラフトイベント共生・プロデューサー 小田庸介さん
静岡県内で活躍する作家やものづくり企業を軸に、徳川家康公ゆかりの駿府城公園にて開催する静岡初冬のクラフトマーケット。木・陶磁器・ガラス・布・紙・金属などさまざまな素材から生まれる作品をはじめ、和菓子や焼き菓子コーヒーにビールまで楽しめます。年に一度11月に開催されており、今年は7回目の開催となります。今回は共生のプロデューサーの小田庸介さんに「共生」が生まれたきっかけや想いを伺ってきました。
共生が生まれたきっかけについて教えてください。
「もう10年くらい前ですかね、なんとなくデフレという言葉が世間で言われなくなった頃に、ものづくりに対して“このままじゃいよいよやばい”みたいな危機意識が、携わる人たちの中でざわつくタイミングがあって。共生がスタートする前も、やっぱりそんな匂いが静岡県内でプンプンしてまして“何かやらないと”みたいな雰囲気だったのを覚えています。そんな折に県の声掛けでオープンファクトリーをやる動きがあり、紆余曲折を経てそこに集まったメンバーの数人で始めたのが『共生Shizuoka Craft Week』でした。まずは静岡のものづくりの魅力を静岡の人に知ってもらおう、未来に向けて取り組むイベントをやろうって、当時もかなり熱かったですね。
そもそも商品は作り手だけではなかなか売れないわけです。例えば家具屋さんが作ったテーブルを自分のお店で売っていれば、それだけでお客さんが買ってくれるかっていうと今の時代そんなことはなかなかなく、多くの人のバトンを経てようやく売れる時代なわけで。お客さんからの紹介やネットの口コミとか、あるいは飲食店さんがお店に採用してもらうよう営業するとか、住宅会社と連動してみるとか、既存の感覚を超えた考え方や業界の枠を超えワークシェアしていく感覚がないと商売が成立しなくなってきているわけですね。
今では当たり前なこと、簡単にわかることが10年前はなかなかできていなくて、そんな取り組みを自分たちが前のめりに応援していこうみたいな。でも実は昔はそういうことが至極当たり前だったんですね。情報が少なかったことで逆に半径何メートルの中でこそ商売が連動することが当たり前だった。そういう風にしないと、結果、商品は動かないっていう時代。でも情報化社会になってきて、だんだんそういうのが置き去りになって、ボタン1つで買えるみたいな。だから、共生のホームページにも書いてあるんですけど、そういう簡単な時代になった今でこそ、実は自分のルーツや根本的なところっていうのはすぐ近くに色々備わっていて、そういうものがすごい重要なんですよって。結果それらが今に至っていると思うんです。」
静岡が活気あふれる街となるように
「個人の話をすると、共生がスタートしたころ私は静岡のフリーマガジンを作っていました。地域情報誌を作っているとそれはもう地域の人たちにめちゃくちゃお世話になるわけです。事業が軌道に乗り出すと一丁前にそれを恩返しなきゃいけないって思うようになって。それでいつからか静岡の問題点を考え出すんですよ。そうして気づいたのが当時から叫ばれていた人口減少問題。最近だと静岡市が2050年に55万人を切っちゃうなんてニュースが流れたり、かなり大変な問題です。人口が減少していくということは、当然ですが物は売れなくなっていく。結果、街は人口に合わせて小規模になってしまう。これをどうにかしようって考えた時に、兎にも角にも地元の産業が元気であれば人は勝手に集まってくるはずだと考えたんです。それこそゴールドラッシュみたいに(笑)
地方都市の中で勝ち組になれるような産業設計ができれば人口減少も止まるはず。だから安直ですがやるべきは産業振興だって思ったんですよね。しかし産業振興するって言っても結構色々あって。そういう中で、たまたま県の地域産業課さんから引き合いをいただき、ものづくりにフォーカスを当てた産業振興っていうのをやってみようっていうのがスタートでした。」
静岡のまだ知られざる魅力を探る
「静岡はストーリー性を作りやすい場所だなと思っていまして。歴史も文化もあって、自然豊かで人も良い。今回の倉俣さんの企画(*デザインプロジェクト展)もそうですが、様々な分野で逸話みたいなものがたくさん眠っていたりするわけです。そういうものを丁寧に掘り起こしていけば、新たな魅力発見になるかもしれない。逆にそういうストーリーを作っていくことで、新たなビジネスモデルができるかもしれないって思い続けていまして。3年前に地域情報誌の編集長から離れた後に匠宿の館長を務めさせていただいたのも、やっぱりものづくりに対する可能性の模索でした。現在はさらに角度を変えてレモンの生産と加工に出会い起業しましたが、そのへんの考え方の根っこは変わっていないと思っています。それこそ共生に関わったおかげで静岡の可能性が見えてきたっていうのが自分の中でもすごくあって。私だけじゃなく皆がそれぞれにストーリー性を掘り起こしたり、創造したりしてビジネスモデルを立ち上げチャレンジしていけば、最高だなと思ってるんですよね。」
共生意識を持って生きられるように
「そもそも共生という名前はディレクターの花澤くんが提案したものでした。斬新すぎて最初はすごく抵抗があったのを覚えています(笑)あと『きょうせい』っていろんな意味にとられるなって。耳で聞いた時に勘違いされるとか言っていたんだけど、今となってはまさにこのタイトルだったよなって心から思っています。何より共生という名は良い意味で自由かつあいまいな部分があって、このタイトルに助けられているところはすごくあるなと思います。
一方で実行委員のメンバーは皆個が強いというか想いが強すぎるというか基本曲げないんですね。なのでミーティングは常に議論議論の連続でして。まあもちろんそこが楽しいんですが。その成果として共生の言葉通りに作家同士がコラボを始めたり、メーカー同士が共生きっかけで仕事先を紹介しあったりしているのを垣間見ると本当に嬉しくなっちゃって。共生のマーケットの中の人たちだったり、クラフトツアーに関わった人たちだったり、もちろんお客さんだったり、僕らが仲立ちしてどんどんとその輪が繋がり広がっていくことによって静岡が盛り上がっていく実感も少しずつ得られるようになりました。ものづくりに携わる皆さんは個々の仕事には自信はあっても苦手分野も多く、人と繋がることとか、人の発した言葉に対して強い思いを聞き入れたりとか、職人ならではの価値観を大事にされている一方で不器用な点も多く見受けられます。それはそれでとても素晴らしいことでもありながら、共生という楽な枠組みの中で気づきを得たり、成功体験を積んでもらえたりすればいいのかなと。なによりも商売ってお互い様なんですよね。そのことを忘れずに明日の静岡を皆さんが作っていってもらえれば嬉しいなと思っています。そしてそこに寄せられるお客様の暮らしが豊かになり幸せになっていただければと願っています。」